2025年4月4日
論文出版
2021年8月中旬に九州北部で発生した大雨に関する論文が出版されました。
発表論文
Manda, A., Sakagami, T., Nonaka, M. et al. (2025). Impact of sea surface temperature anomalies in the East China Sea and western subtropical pacific on the august 2021 Northern Kyushu heavy precipitation. Journal of Oceanography. https://doi.org/10.1007/s10872-025-00754-y
本文へのリンク: https://rdcu.be/ehOVe
2021年8月、日本の九州北部では記録的な大雨が発生し、各地で甚大な被害をもたらしました。この豪雨の要因の一つとして、東シナ海および西部北太平洋の海面水温の異常が大きく関係していた可能性があります。
三重大学、海洋研究開発機構、東京大学、防災科学技術研究所による共同研究である本研究では、気象モデルを用いて、当時の海面水温の空間的変化(海面水温偏差)が豪雨にどのような影響を与えたのかを解析しました。
本研究では、東シナ海北部の海面水温が平年より高かったことが、梅雨前線低気圧の発達を促進し、水蒸気輸送の強化につながり、これが強い雨が降った一因となった可能性が示されました。
さらに興味深い点として、西部北太平洋には平年より冷たい水温の領域が存在していたにもかかわらず、その上を通過した空気塊がより不安定な状態となり、降水強化に寄与していたことが示唆されました。これは、冷水域上空では大気境界層が安定していることによって、空気塊が低い高度にとどまり、海面からの熱や水蒸気の影響をより受けやすくなるためであると推察されます。
本研究は、日本近海の海面水温の複雑な分布が豪雨の発生や強度に大きな影響を与えることを改めて示すものです。今後、気候変動に伴う海洋環境の変化が進む中で、豪雨の予測精度向上や防災対策の高度化には、こうした海洋―大気相互作用の理解が不可欠です。
本研究成果は、将来的な気象災害の軽減に資する知見として、防災・減災への応用が期待されます。
2024年7月31日
新聞報道
2024年7月30日に発生した秋田・山形における大雨に関するコメントが下記新聞記事に掲載されました。
万田敦昌 (2024/7/31): 台風3号大量の水蒸気供給 日本海の高い海面水温影響. 北日本新聞.
万田敦昌 (2024/7/31): 【秋田・山形大雨】台風、水蒸気を大量供給. 福井新聞.
万田敦昌 (2024/7/31): 秋田・山形、記録的大雨 日本海の高い水温影響か 識者「大雨続く可能性ある」. 秋田魁新報.
万田敦昌 (2024/7/31): 大雨災害 台風が水蒸気大量供給 日本海の高い海水温も影響. 東奥日報.
2024年7月1日
論文出版
米国地球物理学連合 (American Geophysical Union)の学会誌 (Earth and Space Science)から論文を出版しました 。
Manda, A., Tachibana, Y., Nakamura, H., Takikawa, T., Nishina, A., Moteki, Q., et al. (2024). Intensive radiosonde observations of environmental conditions on the development of a mesoscale convective system in the Baiu frontal zone. Earth and Space Science, 11, e2023EA003486. https://doi.org/10.1029/2023EA003486
本研究では,梅雨期の集中豪雨の要因となることも多いメソ対流システムの発達要因について調べました。メソ対流システムに関しては,発生地点近傍の観測データが十分でないこともあり,そのメカニズムについては不明な点が多く残されています。特に異なる高度における水蒸気輸送が果たす役割については,議論の対象となっていました。本研究では2022年6月に大規模な現地観測を行い,これまでにない稠密かつ高頻度の大気観測データを得ることに成功しました。
この降水システムは、海面付近と海面上空の2つの非常に湿った気塊の流入が鉛直方向に重なることで発達しました。海面付近の湿った空気は大気を不安定にし、上空の湿った空気は対流の弱まりを抑えることで,降水システムの発達に貢献していました。降水システムが発達する可能性のある領域は、自由対流圏の湿度分布のわずかな変化に敏感であることが分かりました。
本研究で得られた知見は、自由対流圏における湿潤空気の流入が、表層付近の静的安定性と梅雨前線内の降水システム発達との関係を多様化させる重要な要因であり、湿潤空気の輸送をより包括的に理解することで、対流系の予報をより正確に行うことができる可能性があることを示しています。
2023年3月30日
WILY Top Downloaded Article 2021受賞
2021年に米国地球物理学連合 (American Geophysical Union)の学会誌 (Geophysical Research Letters)に発表した万田敦昌准教授の学術論文が, 世界有数の学術出版社WILEYの2021年の最多ダウンロード論文(Top Downloaded Article 2021)に輝きました。
Zhao, N., Manda, A., Guo, X., Kikuchi, K., Nasuno, T., Nakano, M., et al. (2021). A Lagrangian view of moisture transport related to the heavy rainfall of July 2020 in Japan: Importance of the moistening over the subtropical regions. Geophysical Research Letters, 48, e2020GL091441.
この論文では令和2年7月豪雨発生時の水蒸気の起源をシミュレーションによって調べました。その結果, 熱帯から流入する大量の水蒸気の過半は日本列島に到達する前に降水として消費されてしまうことを明らかにするとともに, 西太平洋亜熱帯海域における蒸発と対流活動による対流圏中層での加湿の重要性を示しました。 豪雨発生時における日本列島に流入する水蒸気の起源を明らかすることは,気候変化に伴う豪雨の変化を解明する上で重要な課題であり,本研究の成果は豪雨の将来予測の不確実性を減ずるための重要な成果の一つと考えられます。